「そして夜は甦る」

 沢崎さんが、すごくスマートでカッコよく見えてしまった(ぽ)。なんだろう。オンナゴコロをくすぐる、とでも言いましょうか。もしかしたら母性本能がくすぐられているのかもしれませんが。なんせ、すごい好きです(^-^)。

 沢崎は、渡辺探偵事務所の1人きりの探偵。それなりに探偵の仕事はあるらしく、いつも忙しくしているようです*1。そんな渡辺探偵事務所に、1人の男が訪ねてくるところから、この長い物語が始まります。彼の依頼とも呼べない話は分からないことだらけで、沢崎が気にしはじめるのと同時に、その男が話した行方不明の男性“ルポライターの佐伯”という名前を再び聞くことに。そこに沢崎は“事件”を感じたのか“因縁”を感じたのか、はたまた“運命”を感じたのかもしれませんが、佐伯の妻から正式に依頼され、行方不明の佐伯氏を探すことになります。

 探偵という職業柄かどうかは分かりませんが、沢崎には新宿署に錦織という知りあいの警部がいます。5年前にとある事件で取り調べを受けた縁で*2、沢崎は何かと利用したがるのですが、錦織はそれを露骨にしかも思いっ切り嫌がる。そういうやりとりが面白いんですねえ。

 例えば、沢崎が錦織のことを「ある信頼できる男」と言ったとき*3、相手が「その友人の方」と言うと即座に「私は友人とは言っていません」と否定するんです。なんだか子供みたいだよね(笑)。錦織は錦織で、露骨に嫌がりながらも、結局は沢崎の言う通りに動いていたりするので(まあ、動かざるを得ないように沢崎が持っていくんだけれども)、素直じゃないなあ、かわいいなあ、なんて思ったり(笑)。

 そういうやりとり以外にも、私的“小ネタ”がちりばめられていて、くすくす笑いながら読み進めました。事件はそんな単純なものではなく、最終的には壮大な事件に発展していくのですが、沢崎はいつでも冷静で、あまり感情を持っていないように振るまいながら、事件の大きさに関係なく淡々と仕事をこなしていくんですね。その“淡々ぶり”が心をくすぐられる。40にもなってまだ独身というあたり、どこかにまだ少年の心を残していたりするんでしょうか。…そうだとしたら、それはまたちょっと気持ち悪かったりしますが(笑)。ただ諦めている、というのではなく、とても冷静なんだろうなと思います。そのあたりは、あとがきに代えられた小さな物語で綴られているので、そちらを参照してほしいと思います。

 レイモンド・チャンドラーを1冊しか読んでいなくても*4、マーロウのことをそれほど知らなくても、この物語は充分楽しめます。逆にこの物語から、ハードボイルドの世界に踏み出すのも、とてもいいんじゃないかと思います。

*1:これは、物語全体を通してみての感想。

*2:当時はまだ平の刑事だったそうです。

*3:警察なのでその辺は間違いなく“信頼”できるのです。本人が信頼しているかどうか、はまた別の問題として(笑)。まあでも、信頼していないと協力関係にはならないので、本当は“男の友情”で結ばれていると思われます。で、そういうところがやっぱりハードボイルドなんだと思うんだなあ。

*4:長いお別れ」のみ。