「事故係 生稲昇太の多感 (講談社文庫)」

 あっという間に読み終えてしまいました。連作短編集、というか、長編というか。ミステリーかどうかもなんだか微妙な感じですが、でも、面白かったです。

 第1話は、以前アンソロジーで読んだことがありました。そこから話が膨らんでいく、というわけでもなく、でも、やっぱり続いてはいるのです。かといって、これを“事故係の日常”とは言いたくない。

 2時間サスペンスで「警視庁鑑識班」というシリーズがあるのですが、あんな感じでしょうか。といっても、凄惨な事件が起きるわけではなく、あくまでも対処するのは交通事故のみ。しかしながら、この交通事故っていうのにもいろいろあって、物損事故、人身事故、ひき逃げ、死亡事故と、事故の数だけその背後にある事情も異なってくるわけですね。その辺を、不器用な若き警察官・生稲昇太の目を通して描くことによって、単なる“事故係の日常”というものとは一線を画していると思うのです。

 正義感から、不当な者を罰しようとがんばる昇太の前に立ちはだかるのは、“警察”という組織。尊敬する先輩に不満を抱いたり、自分の居場所が分からなくなったり、“多感”なだけに、さまざまな壁にぶつかります。それを、また不器用に乗り越えていくんですよね(笑)。

 本筋とは関係なく、ほかにも気になることはいろいろあるのです。南署のマドンナ・大西碧の昇太に対する態度の謎。見目の今後。そして、ペンディングになっている事故(というか、新聞掲載事件)のその後(これは、もしかしたらアレで終わりなのかもしれませんが)。なので、たぶん、今後もこのシリーズは続いていくんじゃないかと思うのです。