アリスの過去。

 久しぶりに本の話なんぞを。

 先日、文庫落ちした『スイス時計の謎』。ようやく読みました。日本推理作家協会賞を受賞したのは『マレー鉄道の謎』でしたね。そっちよりも、私はこっちのほうが断然好きです。

 収録されているのは「あるYの悲劇」「女性彫刻家の首」「シャイロックの密室」「スイス時計の謎」の計4編。「あるYの悲劇」は『「Y」の悲劇』(講談社文庫)というアンソロジーに収録されています。「女性彫刻家の首」もアンソロジー不透明な殺人』(祥伝社文庫)に収録。どちらも既読の作品でしたが*1、概要は覚えていても、ストーリーはすっかり忘れてしまっていたので(笑)、充分楽しめました。

シャイロックの密室」は置いておいて(笑)、「スイス時計の謎」です。

 こちらは、短編、というよりは中編ですね。事件にアリスの友人(といっても、高校の同級生というだけですが)が巻き込まれている、というのは『マレー鉄道の謎』とよく似てます。ここで少しアリスの過去に触れられるのですが、それがちょっと笑っちゃうんだよね。あまりにアリスらしい過去なので(笑)。そして、それとは別のアリスの過去も、ちょっぴりここで明らかになります。それは、火村の過去とは比べ物にはなりませんが、それでも、これまでにはなかったんじゃないかな、こんな重めな感じなのは。それが、先に触れた笑っちゃう過去とよい対比となって、火村×アリスをこよなく愛する私にとっては、たまりません。なんといっても、火村×アリスは、私をキャラクター萌えに目覚めさせたシリーズですから(笑)。

 まあでも、それもある意味おまけなわけで。

 この作品の魅力というのは、その論理的な謎解き。これに終始するでしょう。これまでの作品だって、論理的じゃなかったとはいいません。紛れもなく国名シリーズだって本格作品ですからね、その謎は火村さんの論理の積み重ねによって解かれていくわけです。しかし、今回はそれがとてつもないわけですよ。なんというか、アクロバットもなし、アクションもなし。決して派手ではなく、どちらかというと、淡々と推理を披露していくだけなのですが、そのロジックが文句のつけようのないほどしっかりしているので、つけいる隙がまったくない。それは、そういう風に書いた、とアリスもあとがきに書いてあるのですが、なんかもう、ものすごい“凄み”を感じるわけです。

 この衝撃は、徐々にやってきます。読み終わった直後は、あっけにとられた感じ。何が起こったのか、よく分からないほどに(笑)。でも、よくよく考えてみると、ものすごいことが行われていたんだなー、なんて実感するわけですよ。

ペルシャ猫の謎』以来、国名シリーズを読まなくなった、という声をたまに聞きます。分かります(笑)。あれはある意味反則ですから(笑)。でも、そういう人にこそ、ぜひ読んでほしいなー、なんて思うわけです。

 さらに、全体的なことを言っておくと、それぞれ趣向が違っているという面白さもある。どれが何かとは言いません。言わなくても分かるものもあるけど(笑)。そういった意味でも、やっぱり読んでほしいなー。

オンライン書店ビーケーワン:スイス時計の謎スイス時計の謎有栖川有栖講談社文庫)

*1:調べてみると『不透明な殺人』って読んでないみたいだな(^^;)。でも読んだ気がする。絶対読んでるはず(笑)。