「ウロボロスの偽書」

 いやー、面白かった! メタフィクションだとか、壊れた推理小説だとか、いろいろ呼び方はあるのでしょうが、これは、まごうことなき“エンタテインメント小説”ですっ。

 実名小説ってのは、なんだか分かりませんが、わくわくします(笑)。知っている人の名前が出て、それなりの行動・活躍をしてくれると、もうそれだけでいい。ってのがまず1点(単にミーハーなだけですが(笑))。竹本作品はそんなに読んでないんだけれども、「匣の中の失楽」の世界を、もっと軽くしてあるってのがいいね。「匣」は面白かったんだけど、やっぱりちょっとかたっ苦しくて(でも、読みにくいというわけではない)ものすごく“雰囲気重視”って感じがしていたのですよ。「ウロボロス」もある意味雰囲気重視ではあるのですが、それはどちらかというと、軽い雰囲気。竹本さんの言う「おたく」ってのがツボだったりするわけです(笑)。

 文庫版で上下2冊。しかも、中身はいきなり殺人鬼の手記から始まり、作者を主人公にしたエッセイ風な作品、そして本格作品である“トリック芸者シリーズ”と、3つの“世界”が同時にスタートします。最初は頭の中に“?”がいっぱい並ぶのですが、読み進むうちに、さらに“?”の数は増えていくんですねえ(笑)。そこが面白い。

 下巻の途中に、「この作品に論理的な解決を求めてはいけない」というような注意書きが挟まれていたりするのですが、それすら私は「読者への挑戦状」のように、作品の一部かと思ったほど。敢えていうなら、“なんでもあり”な感じ。実際はそうではなくて、むちゃくちゃ考えられた作品なのですが。

 それが分かるのは、最後の巽さんによる解説(巽さんは作中にも登場します)。最近、解説があまりにつまらなくて(笑)、一部を除いてほとんど読まなくなっていたのですが、これは解説まで含めて1つの作品なんだと思いますよ。しかも“登場人物による解説”だなんて、もしかしたらそれまで竹本さんが書いてたりしてね(笑)。だったらもっと面白いのに。

 内容的には、事件や謎が解明されたわけでは決してないのだけれど、読後とってもスッキリするんですよね。作者によるあとがきも3段落ちのように用意されていたりして(違)。他の作品も全部読みたくなりました。

 え? もっと内容を聞きたいって? …そんなことを言われてもなあ。ほら、「そこはそれ…」。