「作家の犯行現場 (新潮文庫)」

 雑誌「ダ・ヴィンチ」で連載されていた、有栖川有栖のエッセイ「ミステリー・ツアー」をまとめた単行本が文庫になりました。ミステリーの舞台となったところを巡るというもの。“この作品のここ”というピンポイントなものではなく、ここ(もしくはこれ)を舞台とした作品にはこんなものやこんなものがありますよ、という風に、間口を広げてくれているというのも、ミステリー初心者にまで気を配るアリスらしい。でも、横溝正史江戸川乱歩は別格ね(笑)。

 それにしても、選者がアリスだからかもしれませんが、私にとっても馴染みの場所が結構多かったのが、なんだか嬉しかったです。とりわけ、横溝作品といえば岡山が舞台になるわけですが、島となると、瀬戸内海の島々ですからね。昔から見慣れたあの穏やかな景色が、あの惨劇の舞台になっている、となると多少心がはやります。

 香川県から見ると、瀬戸内海は陸地の北側に広がる穏やかな海です。本州から南に広がる瀬戸内海を見て、違和感を抱かずにはいられませんでしたからね、やっぱり私は四国の子だなあ、と思ったものです。関東にいればとくに、四国から見ようが本州から見ようが、瀬戸内海は瀬戸内海だろう、同じ海ではないか、とそんな風に思われるかもしれません。しかも、太平洋や日本海とは違って、瀬戸内海ですし。あの雄大さも厳しさもない、穏やかに凪いで、誰をも懐に抱いてくれるような優しい海。そんなイメージだと思われます。実際、私もずっとそんな瀬戸内海を見てきましたし。

 しかしながら、心の中ではずっと思ったものです、「この海を岡山から見ると、どんな風に見えるんだろう」と。同じ風景に見えるとは思っていませんでした。四国から見る瀬戸内海というものは、その向こうに、霞んではいるけれども大きく横たわる“本州”というものを見てきたのですね。今でこそ“海外”だと言われても、素直に「そうだよね」と思えますが、昔はかなり劣等感を持っていたものです。

 本州と繋がっていない。それだけで、海を挟んで向かい合う岡山県に、よそよそしくされている、突き放されている、とそんな風に思っていました。こんなに近いのに。でも、岡山は本州で、香川は四国。こんなにちっぽけな海なのに、それはとても大きくて深い溝に見えたのです。

 そんな私が見る瀬戸内海は、穏やかな中にも憧れと嫉妬と、そしてやっぱり諦めを併せてその風景を見せていたのでしょう。

 だからこそ、余計に、本州であるところの岡山県から見た風景は絶対に違う、とそう確信のようなものがありました。それは、今回このエッセイで、少しだけ証明されたような気がします。穏やかな印象しかなかった本島が、横溝作品の舞台となっていた。私にとってはそれだけで充分(^-^)。ただ、アリスが本島にあまり興味を持っていなかったのが、ちょっと残念ではあるのですが(笑)。

 ちなみに、本島は「悪霊島」の舞台。そして、映画「機関車先生」の撮影に使われた場所でもあります。最近は「世界の中心で、愛をさけぶ」で、映画のロケ地として有名になった香川県ですが、昔からよく瀬戸内の島々は撮影に使われていたようですよ。ああ、こんなものがありました(笑)。

http://www.21kagawa.com/news/kfc/

 へー。「DOOLS」や「シベ超」まで(^^;)。そういえば昨年は、金丸座でも撮影やってたっけなあ。最近香川県はこういう売り方をしているのね(笑)。